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【連載】健保の窓《NO.200》 ◆許しという私へのプレゼント

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    許しという私へのプレゼント

    - 許しは、選択です(Forgiveness is a choice) - 

    ドイツ語では、許しを「フェア・ゲーベン(vergeben)とフェア・ツァイエン(verzeihen)」の2つの単語で表現します。しかし、この2つにはまったく異なる意味が含まれています。

    私たちは生活の中で-実に多く-お互いが許し合いながら生きています。約束を破られた時、嘘をつかれた時、裏切られた時でさえ、相手の状況を聴いてそれを理解し、受け入れようとします。この時の許し、即ち、AさんがBさんを許せるようにBさんが謝ったり、許しを求めたりするなどの相互的な関係で成り立つ許しをドイツ語では、「フェア・ツァイエン」と言います。

    それに対して、「フェア・ゲーベン」は一方的な許しを意味します。BさんからAさんへ「許してほしい」と謝罪されなくても許してしまうことです。傷つけられた人を憎んだって、苦しめられた人を恨んだって過去は変わらなく、取り返しもつかない事実を受け入れ、一人で許してしまうことです。「フェア・ゲーベン」の許しは、許すことを自分の選択として考え、相手を許せる条件が備わっていなくても、許したことが相手に伝わらなくても、その人がすでに亡くなっていたとしても、自分のために選ぶ許しなのです。

    ある日、小学校の教師だったFさんが相談に来られました。"彼のことが許せません。今まで私は、彼のために尽くしてきましたが、彼は私に羞恥心と屈辱感を与えました。今は、一緒にいる、目を合わせる、同じ空間で息をすることすら耐えられません"と話してくれました。彼は、致命的な過ちをFさんに犯し、大きな痛みと心の傷を残しました。Fさんは、何日も眠れずに苦しんだあげく、うつ病と診断されました。病状は悪くなる一方で、このままでは教師の仕事のみならず、普段の生活ですらできなくなる危険な状況でした。ある日Fさんは、自分が生きるために許しを決断します。しかし、決断したにも関わらず、依然として怒りと憎しみの感情は消えなく、逆に心から彼を許せない自分の冷たさにさらに絶望する毎日を過ごすようになりました。Fさんは、「フェア・ゲーベン」と「フェア・ツァイエン」の違いを知らないまま、許そうとしていたのです。

    許しは、良い人になるためでなく、自分が生きるために行うものです。許しを選択したからと言って、必ずしも感情的変化を期待してはいけません。相手から受けた苦しい記憶がすぐ消えるとは限らないからです。Fさんは、「フェア・ゲーベン」と「フェア・ツァイエン」が同じものだと思ったから苦しかったのです。

    許しは、まずは自分へ送るプレゼントだと理解して下さい。幸せに生きるためには、感情的変化ではなく、選択の意思によるものです。感情の処理、和解、受容はその次の課題なのです。次号では、「幸せな選択」についてお話します。


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