適切な距離感としなやかな生き方
- エピソードは、人と人をつなぐ橋 -
地域や企業で心の健康に関する相談支援をしていると、多くの人が同じ悩みを抱えていることに気づきます。
"言いたいことがちゃんと伝わらない"、"何が言いたいのかわからない"、"考えていることが全然理解できない"、"何でこんなにわかってくれないんだろう"、"本当に自分のことしか考えていない"のようなコミュニケーションのトラブルです。
「人間は社会的動物である」と言われながらも、なぜこんなにコミュニケーションに苦しむ人が多いのでしょうか。何が原因で、解決法はあるのでしょうか?
今年度4回分の連載ではこの問題と向き合い、コミュニケーションの在り方や課題、解決法などについて考えてみたいと思います。
私見ではありますが、人は年を取るとともに「コミュニケーションのプロ」になるべきだと思います。
赤ちゃんは、泣くか笑うかなどの一方的な感情表現を通して意志を伝え、大きくなっていく中で言葉を使い、自分の思いを相手に伝えることができます。
中学生・高校生になると、見えない相手の気持ちや形のない価値観に気づき、その世界への配慮とともに思いを伝えることもできます。
いろんな社会的経験や世界観の衝突を重ねながら大人になり、個別性と多様性に寄り添える力が付いてきます。
このような過程で人は、世代と価値観を超えた豊かなコミュニケーションの喜びを味わい、一人ひとりが生きる上で必要な知恵を共有できるようになります。
しかし、現実はどうでしょうか。
柔らかい思考で人と接する姿は歳ととも薄れ、いつの間にか思考の枠が固まってしまい、楽しい会話よりも心の断絶を経験したことはないでしょうか?
人生を豊かにしてくれる数々の「思い出(記憶)」が、人の心を感動させる「奇跡」ではなく、形や事実だけにこだわる「基準」に留まってしまったことはないでしょうか。
「記憶」が「基準」に終わらず、人の心をつなぐ「奇跡」になるためにはどうすればよいのでしょうか。
そのために最も大事な要素は、「記憶」を「エピソード」に変えていくことです。
「記憶」とは、今までの人生で経験した数々のライフイベントを意味しますが、嬉しいことも辛いことも含まれます。
このライフイベントを通して得た知恵を人の心の境界線を決め付ける基準ではなく、人の心をつなぐエピソードにしていく作業、この作業が上手な人を「コミュニケーションのプロ」と言えるのでしょう。
次号では、「コミュニケーションのプロになる第一歩-苦痛は何を基準に決まるのか-」についてお話します。